医療分野へのブロックチェーン活用 国内外の動向について解説

医療分野では、ブロックチェーン技術を活用した変革の動きが加速しています。そこで、本記事では今後の動向を知るためにも、国内外の事例や医療とブロックチェーンの組み合わせが生み出すメリットについて解説します。

BLOCK CHAIN

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    ブロックチェーンと医療分野の関係性

    ブロックチェーンにおける大きな特徴の1つに、データの改ざんが困難な「耐改ざん性」が挙げられます。耐改ざん性の高さは、命に関わる重要情報を持つ医療分野との相性が良いとされており、昨今大きな注目を集めています。

    ここでは、ブロックチェーンと医療分野の関係性をより深く理解できるよう、ブロックチェーン技術の概要や医療・ヘルスケア分野の市場規模について詳しく解説します。

    ブロックチェーンとは?

    ブロックチェーンとは、情報を記録するためのデータベースの1つです。記録する情報をブロック単位でまとめて暗号化し、過去から1本のチェーンのようにつなげることで取引の履歴などを正確に維持する技術を意味します。

    また、記録する情報データは不可逆な暗号関数をつかって記録されるため、耐改ざん性が極めて高いのです。現に、契約や取引における自動化や食品、製品のトレーサビリティなどに応用が始められており、今後は医療分野以外にもさまざまな分野でも活用が進むと予想されます。

    ブロックチェーンの技術に関する詳しい内容は次のページで解説していますので、参考にしてみてください。

     

    【知らないと損する?】ブロックチェーンの仕組みを徹底解説!!

     

    医療・ヘルスケア分野の市場規模

    医療・ヘルスケア分野の市場規模は年々拡大しており、2013年では16兆円であった国内市場は、2030年には37兆円にまで成長すると予想されます。市場規模が拡大傾向にある理由は、少子高齢化の進行はもちろんのこと、医療技術の進化や充実などが挙げられるでしょう。

    ただし、医療・ヘルスケア分野における市場規模の拡大は、それだけ医療や介護を必要とする人が増えているともいえます。もし、市場規模の拡大に伴って医療現場で働く人が増えなかったとすると医療サービスの需要と供給のバランスが崩れ、最終的には医療崩壊にもつながりかねません。

    そこで注目されるのが「予防医療」です。予防医療とは、病気にかかってから治療するのではなく、病気になることを未然に防ぎ、健康寿命を伸ばして医療崩壊を防ごうという考え方を意味します。

    予防医療の推進には医療データの活用が欠かせず、それに伴ったシステムの変革が必要です。その方法の1つとして、耐改ざん性の高いブロックチェーン技術が期待されています。

    参考:数字で見るヘルスケア産業 2030年、37兆円規模に | 2016年8月号

    医療とブロックチェーンの組み合わせが生み出す3つのメリット

    医療データをセキュアな仕組みで管理するには、医療とブロックチェーン技術の組み合わせが欠かせません。この2つの組み合わせが生み出すメリットは次の3つです。

    • 医療データを自身で管理できる
    • 診療情報の非対称性を克服できる
    • データベースの統合が図れる

    ここでは、各メリットの詳しい内容をみていきましょう。

     

    1.医療データを自身で管理できる

    医療をブロックチェーンと組み合わせることによって、診療情報などの医療データを患者自身で管理できるようになります。医療データは自身の情報であるにも関わらず、移動や再利用、処分といったことができません。

    しかし、非中央集権的かつ耐改ざん性の高いブロックチェーン技術を活用すれば、診療情報などの医療データを個人に帰属させたり、遺伝子や診断の情報を売買したりすることも可能になります。

     

    2.診療情報の非対称性を克服できる

    医療・ヘルスケアの分野では、扱いに細心の注意を要する遺伝子や診療の情報を扱います。よって「患者と病院」「処方薬の売手と買手」といった立場の異なる2者間では、どうしても情報の非対称性が大きくなりがちです。

    例えば、病院側が専門的な医療データを多く保有しているのに対し、患者側はほとんど情報を保有できません。その結果として、患者側に最適な医療が提供されない状況が生じる可能性があるのです。

    しかし、ブロックチェーン技術を用いれば、オープンかつ真正性の高い医療データを患者側と病院側、処方薬の売手と買手といった主体間で管理でき、診療情報の非対称性克服につながります。

     

    3.データベースの統合が図れる

    医療とブロックチェーンの組み合わせは医療データの統合が図られ、非効率な業務の合理化につながります。厚生労働省が発表する「令和元(2019)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」によると、全国の医療施設総数は「181,621施設」にのぼるとされています。

    ところが、医療データは医療施設ごとで入手し、相互に統合されることなく異なるデータベースに保管されているのです。このことによって、1人の患者に関する医療データを医療施設ごとに別々に管理し、さらには非効率な転記業務が行われます。

    しかし、ブロックチェーン技術を活用すれば「問診票」や「保険金請求に関する伝票」などの統合が可能となり、情報の突合や転記といった業務の省略が可能です。

    参考:令和元(2019)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況|厚生労働省

     

    国内における医療分野へのブロックチェーン活用の動向

    日本とアメリカでは、医療制度自体が異なります。しかし、いずれも医療情報の管理の簡素化や流通プロセスの透明化について課題を抱えており、実際にブロックチェーン技術が活用され始めています。国内における活用例は次の2つです。

    • 医療情報プラットフォームを展開「健康銀行」
    • 臨床研究モニタリングの実証「サスメド」

    活用例ごとの詳しい内容をみていきましょう。

    医療情報プラットフォームを展開「健康銀行」

    医療情報プラットフォームの「健康銀行」は、アプリ開発や健康経営サポート事業を軸に事業を行う「Arteryex株式会社」が展開しています。ブロックチェーンを活用した独自技術の「Arteryex Chain」を活用し、新たな医療データの管理システムの開発を進めています。

    健康銀行は、医療業界における長年の課題である「診療情報の非対称性」などの問題を解消するとして注目を集めているのです。「削除不可能な医療データの生成」や「患者側への価値還元」などを実現する健康銀行は、ブロックチェーンが持つ耐改ざん性や非中央集権性を活かした好例といえます。

    参考:Arteryex株式会社

     

    臨床研究モニタリングの実証「サスメド」

    臨床研究モニタリングの実証にブロックチェーンを活用する「サスメド株式会社」は、治療用のスマホアプリや医薬品の臨床試験、研究開発を効率化するシステムを開発するスタートアップ企業です。

    医療・ヘルスケア業界では、研究成果が実社会に実装されるまでに大きな資本が動きます。

    よって、研究時に裏付けとしていたデータに改ざんや誤りがあると市場や社会、研究機関に大きな影響を与えかねません。

    このような改ざんや誤りを防ぎ、社会的なリスクを抑えるためにもサスメド株式会社はブロックチェーンが持つ耐改ざん性に着目し、臨床試験や治験への投資効率を高めています。

    参考:サスメド株式会社

    次のページでは医療以外の2022年最新のブロックチェーン活用事例も紹介していますのでぜひ確認してみてください。

    【2022年最新ブロックチェーン活用事例】中央集権型のデメリットを分散型のブロックチェーンどのように解決するのか

     

    海外における医療分野へのブロックチェーン活用の動向

     

    海外では、本格的にブロックチェーン技術が医療・ヘルスケア業界に応用されており、さまざまな変化が実際に起きています。海外における活用例は次の3つです。

    • 流通経路を追跡「FarmaTrust」
    • 医療情報を管理「MedRec」
    • 電子カルテの共有「エストニア政府」

    活用例ごとの詳しい内容についてみていきましょう。

     

    流通経路を追跡「FarmaTrust」

    FarmaTrustとは、偽造薬品の排除によって製薬業界のサプライチェーンを透明化かつ効率化するためのブロックチェーンです。規格外医薬品と偽造医薬品はアメリカを始めとする世界規模の問題となっており、数百万人規模の死者が毎年出ているとされます。

    このような規格外医薬品や偽造医薬品の流通を防ぐためにも、FarmaTrustは医薬品の製造から消費者に届くまでの流通経路を追跡可能にしているのです。つまり、医薬品の提供側と規制側に情報を可視化させることで、偽造医薬品の拡散を防止しています。

    参考:https://www.farmatrust.com/

     

    医療情報を管理「MedRec」

    米国マサチューセッツ工科大学 建築・計画スクール内に設置される「MITメディアラボ」で開発された「MedRec」は、ブロックチェーンを活用して横断的な医療情報の利用を可能にしています。前述の通り、医療情報は医療機関ごとに管理されるのが一般的です。

    よって、患者の医療履歴を病院側が横断的に確認するには、以前の病院から同意を得る必要があります。その結果として、確認に多くの時間を要するだけでなく、医療ミスも引き起こしかねませんでした。

    しかし、ブロックチェーン技術を活用するMedRecでは、認証を受けた医療機関であれば医療履歴をいつでも閲覧可能です。さらに、身分が保証された患者や医者のみがシステムに参加できるため、セキュアな管理環境を維持できます。

    参考:https://medrec.media.mit.edu/

     

    電子カルテの共有「エストニア政府」

    ロシアの西に位置する北欧の国である「エストニア」では、医療へのブロックチェーン活用を国家レベルで進めています。エストニアではブロックチェーン技術を応用し、電子カルテを国全体で共有しているのです。

    その結果として「保険請求のオンライン化」「医療機関の待ち時間短縮」「医療情報へのアクセス記録の管理」といった内容を実現し、医療業界における多くの課題を解決しています。

    参考:「医療×ブロックチェーン」の絶大なメリット 東洋経済

    保険業界におけるブロックチェーン活用の可能性や事例なども次のページで解説しています。

    ブロックチェーン技術が保険業務を変える!活用事例5選も紹介!

     

    ブロックチェーンが医療分野の革新を支える

    ブロックチェーンが持つ「非中央集権性」「耐改ざん性」といった特徴は、医療・ヘルスケア分野が長年抱えるさまざまな課題を解決し、業界全体に革新をもたらす可能性があります。

    実際に医療分野へのブロックチェーン活用が着実に進められており、1つの成功事例が大きな潮流につながるかもしれません。今後も医療分野におけるブロックチェーン活用の動向について注目していきましょう。

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